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山道と温泉~もうひとつの東海道線をゆく

【「東海道線鈍行の旅」の旅程・弁当・温泉に関する参考資料がこちらにあります】


 帰省先・大阪にて。

 岡山名産「あたご梨」(叔母の土産)。規格外れにデカい動植物というのは普通まずいのだが、大きい分だけ梨の味と水気を満喫できた。


 さて、帰りは1月3日。手元には相変わらず「青春18きっぷ」しかない。
 行きは"東海道本線"を忠実にたどってきたので、今度は「本当の"東海道"」をたどることを考える。となると草津で東海道線を離れて南東に進み(草津線)、伊賀国・柘植で関西本線(大阪~奈良~名古屋)に乗り換えて→亀山→桑名→名古屋となる訳だが、これだと関西線の列車に途中駅から乗ることになる。この区間の関西線は需要ギリギリまで本数・両数を絞った超ローカル区間。そういう場所は「18きっぷ」シーズンだと、限られた列車に旅行客が集中、ときには殺到する。
 そんな訳でややアレンジして、京都から奈良線で木津(奈良の2つ北隣)まで下り、そこから関西線に乗ることにした。木津の1つ先・加茂が、以東の「超ローカル区間」の始発駅である。

 10時すぎに、東海道線の快速電車で大阪駅を出て、高槻で後から来る新快速に乗り換え。正月らしいのんびりした車内。
 が、京都で降りて奈良線ホームへ行くや、通勤ラッシュみたいな阿鼻叫喚が待っていた。
「ドアが閉まりまーす!ドアを閉めさせて下さーい!」
駅員の制止にもかかわらず、すし詰めの"みやこ路快速"はいつまで経っても乗る人が途切れない。結局、定刻の47分から3分遅れで発車。
「このコース、こんなに人気があるのか?!」
 まさかと思いつつ一瞬ヒヤリとしたが、親子連れにアベックに老夫婦…明らかに「18きっぱー」とは違う客層に、京都南郊・伏見稲荷の存在を思い出す。果たして臨時停車の稲荷駅でほとんどの人々が降り、ガラガラに。
ファイル 4-1.jpgファイル 4-2.jpg
ちなみにこの奈良線、快速は快適な新型車【写真左】だが、普通電車は普通電車で首都圏在住者には懐かしい「国電」【写真右】が楽しめる。内装もオリジナルに近いものが多く、ブァーン…というモーターまわりの排気音に同行の(鉄とは無縁な)弟が「あ!昔のハマ線の音だ!」と感激していた。
 いろんな事情から関西では他の区間にも「昔の中央線」「昔の京浜東北線」がゴロゴロしている。映画『パッチギ2』で、辛うじて外形が似ている某私鉄の車両をスカイブルーに塗り替え「昔の京浜東北線」としていたが、そんなことをしなくても国内にまだ本物があるのに…。


 40分ほどで京都府の南端・木津。10分あまりの待ち合わせで関西線上り(大阪発奈良経由)に乗ると、次の加茂が終点だ。いよいよ関西線の「超ローカル区間」。ここまでは毎時3本あるが、ここから東は毎時1本。25分ほど前に着いたのだが、早くも十数人の老若男女がホームにいる。
「乗車位置に鞄を置いてしまおう」
 そう思ったものの、どうした訳か上り列車に限って乗車位置の表示が一切ない。仕方がないので停車目標の標識やワンマン運転用のミラーからドア位置を二箇所に絞り、弟と手分けして場所を取る。
「不便だな…いったい、どういう訳なんだ」
 しかし、ほどなくその事情が分かった。次の電車が着いても上りを待つ客はあまり増えず、結局十数人のまま折り返しの上り列車が到着。ディーゼルエンジンの音を響かせた2両編成…2両と言っても通常より二回りは小さい車両なのだが、パラパラと集まった人々は全員無事に着席できてしまった。
「かりにも、これが『本線』なのか…」
 ローカル線になり果てているのは以前にも乗って知っていたし、座れたのはよい。ただ、前に乗った時は本数が少ないなりに混んでいた。「18きっぷ」のシーズン、それも最も人が動くだろう正月三が日の最終日でこの状況となると先行きが不安だ。
 ともあれ12時11分に東へ向けて発車。すぐに山中の登り坂となり、エンジンのうなりが止まらない。
ファイル 4-3.jpgファイル 4-4.jpg
【左…大阪~東京の道行きとは思えない山の中(加太~関)  右…こんな古さびた小さな駅も(加太)】

「亀山行きワンマン列車です…運賃・整理券はお降りの際に、一番前の運賃箱へお入れ下さい。定期券はハッキリお見せ願います…」
 ディーゼルの響き、空いたワンマン列車、細くなっていく川沿いに山を登る線路…東京と大阪の間にある情景だとは思いがたい。京都府から三重県へ入り、伊賀上野まで登り詰めると景色が開けるが、すぐまた山越えとなって、やがて液晶テレビでおなじみの伊勢国・亀山へと降りていく。1時間20分ほどの間、ずっとこんな調子だ。
 もちろん、もはや「本線」の機能はない。やや南を近鉄が走り、名古屋~大阪を最速2時間あまりで結んでいる(こちら経由だと乗り換え2回で4時間以上)。

 さて、加茂のすぐ次(といっても一駅が5分以上あるが)の笠置で、思わぬものを発見。
わかさぎ温泉・笠置いこいの館
 ホームに面した絵地図の中、駅の近くにそういう施設が書き込まれていた。
「……………」
 次の列車はかっきり一時間後。一か八かで降りて歩くと、5分もしないうちに新しめの日帰り温泉が…実にいい気分転換をした。大人ひとり800円(サイトのトップページを印刷して持っていくと100円引き…あらかじめ分かってれば)。
 実は「長旅の途中で一風呂」というのを期待して東海道線沿いを少し調べたのだが、駅の近場にはなく、あきらめていた………まあ、仮にあったら「18きっぷ」の時期に溜まり場にされ、とっくに有名になっているか無くなっているかだろう(場所にもよるが)。
 結局、入れ替わりつつも車内は着席可能な程度の混雑に始終し、草津線経由で柘植からでも十分に座れたのだが、笠置で温泉も見つけたし、とても大阪から東京へ向かっているとは思えない車窓を満喫できたので正解だった。

 14時35分、亀山着。15分後に出る名古屋行きを目指して人々が走るが、ここからは同じ2両編成でも普通サイズの電車。小型のディーゼルカーで全員座れていたのだから、焦らずともよい。
 ここでも赤福がまだ発売再開されていないのと、せっかく有名になったのに「シャ●プ饅頭」「ア●オス煎餅」といった土産物がない(あるわけないだろ!)のとが少し残念。件の工場は駅と無縁に近いらしく、広いホーム3本を備えたかつての要衝は閑散としていた。
 以降、名古屋まで約1時間半。そこからは東海道線ながら、またしても「強制長椅子区間」を新幹線でワープ(笑)。熱海でも立ち寄り湯(上記「資料」参照)に入り、午後10時半すぎ品川着。


ファイル 4-5.jpg
【山越えのトンネルにて(柘植~加太)】

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