まとめメモ「東海道線鈍行の旅・心得と見どころ」


◆行程の目安

 純粋に鈍行を乗り継いで行くと、最低限の乗り換え時間を含めて10時間ほどの道のり。
 通常の運賃ならば8,510円。単に目的地へ行くだけなら高速バスの方が安く、また特急料金5,540円(のぞみ指定席)を足して新幹線に乗った方が費用対効果は大きい。
 「青春18きっぷ」は1日あたり2,300円。ただし5日分セットで11,500円という売り方のみなので、二人で往復しても1日分余る。残りの使い道を考えるか譲受先を見つけるか。なお金券ショップでは1日分につき2,000円ほどで買い入れ、3,000円以上で売っている。

 東京〜熱海(所要1時間半前後)は、普通車オール長椅子(以下「ロングシート」)の列車が走るなど座席事情があまりよくないが、
*下り東京発=5:20静岡行き・7:24伊東行き(→筆者は往路で後者に乗車)
*上り静岡発=19:35東京行き(→筆者は帰路に熱海から乗車)
以上の列車は特急の車両を使っていて、弁当やお茶、それに車窓見物や睡眠にも適している。

 熱海〜静岡〜浜松(乗り換え1回を挟んで所要2時間45分前後)は、上述・静岡発着の一往復を除いて全列車全車がロングシート。
 座席もそうだが、他と比べて距離の割に時間がかかる区間でもある。筆者が新幹線で「ワープ」したのもこのため。
 熱海〜浜松を「ワープ」すると1時間半ほどの時間短縮となる(運賃2,520円・自由席特急料金2,420円。静岡〜浜松ならば短縮は45分程度、運賃1,280円・自由席特急料金950円)。

 浜松〜豊橋(所要40分〜45分)もロングシートの列車が多いが、豊橋以西で快速・特別快速になる列車は確実に【左写真】の様な座席(以下「転換クロスシート」と呼ぶ)の列車となり、通路や向かいを気にせず旅行できる。
 ただし昼前後の都合4時間ほどは、浜松発着の快速・特別快速が一切ない。また、引き続き速度が遅い区間でもあるので、財布が許せば豊橋まで「新幹線ワープ」してしまってもよい。熱海〜豊橋を「ワープ」すると、2時間ほど時間が短縮される(運賃3,260円・自由席特急料金2,420円)。

 豊橋から西は、快速や特別快速なら必ず転換クロスシート。というより、これらに乗らないと時間的にしんどい。
 以遠は大垣、米原で乗り換えとなる場合が多いが、これらについては基本的に何に乗っても転換クロスシート。
 また西半分は所要時間も早く、豊橋〜大阪は上述の乗り換えパターンで4時間(豊橋のやや東寄りに東京〜大阪の中間があるので、単純に考えれば10÷2で5時間近くかかってよいはず)。

 なお、下りの熱海・静岡・大垣での乗り換え、上りの米原・豊橋・浜松での乗り換えは、本数や両数の多い区間→少ない区間(または本数や両数の少ない区間同士)の乗り換えとなるので、ちょうど接続する列車ではなく、その一本前で着いておきたい。
 特に喫煙者諸兄は、喫煙コーナーの場所が駅によってかなり違うので、上記の乗り換えに限らず余裕を持った一服タイムを。


◆弁当……幕の内対決:『伝統の静岡』vs『納得の浜松』

 新幹線が並行しているので、これとの乗換駅を中心に弁当がある。
 いわゆる幕の内弁当は名物でも何でもなく、『一番つまらない駅弁だ』と言う人もある。が、横浜の「シウマイ弁当」も幕の内とあまり変わらないし、ウナギ弁当も浜松のより大阪の「まむし丼」の方が安くて盛りがいいし…ということで、「東海道線らしい弁当」としてあえて静岡県下の幕の内を挙げる。

 【左】が静岡駅・東海軒の『幕の内弁当』(中身はこちら)。何と言っても710円と、駅弁の中ではダントツに安い。そのかわり飯の硬さや具の塩辛さも値段相応なのだが、筆者が鉄道旅行を始めた約二十年前から何ひとつ変わっておらず、紐で結んだ経木の弁当箱を含め「昔の駅弁」そのままを保つ。経験者には懐かしく、未経験者でもこれはこれでイケる一品………名作短編漫画『夜行』(分かるかな?)のオチにも使われている通り、駅弁の味付けが濃いのは日本文化の大事な一コマ(笑)。ぜひそれを実体験してほしい。
 それに業を煮やしたのか、【右】の浜松駅の幕の内の名前はなんと『納得のいく幕の内』(包装はこちら)。ネーミングで挑発するばかりでなく、値段も800円と静岡より90円高いだけ。『…世に幕の内弁当は多々あれど、これぞ本流、これぞ納得、自笑亭幕の内。旅の幕間に、ご賞味ください』と能書きされた蓋を取る。『何が"納得"だ!海老が目立つぐらいじゃないか!』と思ったが、肉団子とその下にある佃煮(ウナギとのこと)が非常にうまい。また煮物の雰囲気が伝える通り味付けは概して淡白で、90円分の高級感はある(笑)。
 なお食事の店については本文で少し書いたが、立ち食いソバ屋のたぐいなら、少なくとも新幹線が停まるクラスの駅ならどこにもある。あえてしっかり昼食を取らず、熱海でソバ、名古屋できしめん、京都でうどん…と試して歩くのも面白そうだ。


◆駅近くの温泉……やっぱり熱海、さすがは熱海

 「駅前温泉 田原湯」  熱海駅から駅前広場を眺めると右斜め前にアーケードが見え、そのすぐ左に下り坂の路地がある。それを降りて突き当たった道を左に曲がると、リンク先にある写真の様な施設が。四人入れば一杯の湯船一つで、洗い場の蛇口も調子が悪かったりするが、少し塩辛い湯はいかにも温泉という感じがする。
 昼からの営業なので使うのは上り限定になるが、疲れたところだからちょうどいい。なおリンク先では22時となっているが、実際には21時閉店なので注意。


◆あらためて、関西本線へのお誘い

 名古屋から南西へ折れ、紀伊半島の付け根あたりから西へ向かい、奈良を通って大阪へ行く「関西本線」の一部を本文で紹介した。
 地図を見ても東海道線回りに比べて相当大回りな感じがするし、ディーゼルカーで山越えをするとなると「その日のうちに向こうへ着けるのかよ」という感じがするが、大阪まで、東海道線経由より1時間半ほど余計にかかる程度(=約4時間半)。筆者が使った奈良線・京都回りだと2時間余計といったところだ。

   以下、日中(10時台から15時頃まで)の標準的な行程。

 名古屋〜亀山は普通電車が毎時一本。所要は1時間半。これとは別に途中までの普通列車や、津や伊勢市へ向かう快速が走る。それらで亀山へは行けないが、桑名や四日市でちょっと降りてみたい場合に、「快速で行って、その後に来る亀山行きに乗り換える」といった使い方ができる。
 亀山で、下りは25分・上りは15分ほどの待ち合わせで加茂行きに接続。念のために接続列車の一本前で着けと言いたいが、お互い一時間ごとではそうも言えない。まして駅には何もなく、よほどの好き者でなければ時間がつぶせない。なお駅や駅前の商店でパンやサンドイッチが手に入るものの、駅弁や立ち食いソバは見当たらなかった。
 亀山〜加茂も毎時一本だが、それきり他には何も走らない。柘植で上下列車が待ち合わせをし、かつその間にやってくる草津線と相互に接続するため4、5分停車する。ここで草津線に乗り換えて「本当の東海道」をたどるのも容易だし、引き続き関西線を行くのであれば降りて一服できる。加茂まで1時間20分、途中で降りてもかっきり1時間後になるだけだ。
 加茂から先は20分に1本の"大和路快速"大阪行き。向かい合わせで10分前後の接続。そのまま天王寺まで1時間弱、大阪まで1時間10分だが、奈良に寄ってもいい。JRの駅は少し外れにあるので観光には不向きだが、県庁所在地の代表駅だけあって、駅前を含めれば買い物・食事の環境は一通り揃っている。
 また、天王寺までの間に普通電車に乗り換えると、「JR難波」行きに乗れる。少し外れになるが文字通り大阪の繁華街「なんば」のことだ。天王寺もそうだが、大阪の目的地が市内でも南寄りであれば、関西線は便利だ。

 …渓流沿いに登り下りする線路というだけでなく、単線なので反対列車を待ったりといった体験もある。また笠置の立ち寄り湯を本文で紹介したが、何もなく誰もいない古びた途中駅で降り、ブラブラしてから汽車を待つのもいい。往復とも普通を使う場合や、東海道線回りをすでに経験された方には、気分転換にぜひ一度経由してほしい路線だ。

 なお、今でこそ奈良以東はローカル線だが、関西線は東海道線全通(1889年)からわずか9年後に私鉄として事実上全通し、東海道線と五分に客を奪い合った経歴を持つ。
 また、東海道線が米原・岐阜経由なのは、当初、東京〜大阪の路線を中山道回りで作ろうとしていた名残。軍部からの要請でそうなっていた様だが、それがなければ当然、名古屋以西も"天下の東海道"に沿って(つまり名古屋付近〜現在の関西線・草津線〜草津というルートで)作られていただろう。戦前の「弾丸列車」計画、それに現在の新幹線の構想時にも、こちら回りが真剣に検討されている。
 だから関西線をゆくことは、『「もうひとつの東海道線」をゆく』と呼べるかもしれない。



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