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妄春~コミケとデフレの関係

ファイル 14-4.jpg(終了後、ようやく水上バスで脱出の図。気分は難民)

 コミケに出るたび、準備会の段取りと東京ビッグサイトの収容力には頭が下がる。
 三日間でのべ50万人=一日あたり十数万人を集めながら、たいした渋滞もなく自分のブースと知人友人のブース、喫煙所やトイレ
とを往来できる。食堂や売店では多少待つものの、詰めかけている人数からすれば本当にスムーズだ…。

 しかし今回、ついにそれが通じないほどの人出になった。
 完全に詰まりこそしないものの、廊下とホール内の廊下寄りが移動する人波で埋まり、自由に動けない。ところによっては往復の流れが無秩序になっている。そんな中を、廊下の端で座り込む人々をよけ、それを禁じる放送を聞きつつ、ブースから百メートルあまりの喫煙所まで片道五分以上…筆者の節煙には貢献したものの、人のブースも訪ねるつもりだった小休止がタバコで終わってしまう。
 まあ、『東方』などの人気ジャンルがますます盛り上がっている、と聞いていたから驚かない。
 事実、筆者の『新嘲文庫』が店を出す"創作文芸"の一帯は普段通り。前後の遠方には話に聞く人気ジャンル、廊下側には移動の人波…自分たちの周囲だけくっきりと穴が空いている。これが格差ってヤツか(←違う)。
ファイル 14-1.jpg
 と思っていたら、終わってみると前回の倍近い冊数を売りさばいている(『新嘲文庫』の「イベント情報」を参照)。
 そういえば心なしか、いつもより人とたくさん話をしたような…でもなんで急に…??
 うれしさよりも、疑問がまず頭をもたげた。

 新刊で、固定のファンがついている絵師さんに挿絵をお願いしたからか。
 実は三年前の冬にも同レベルの繁盛を経験していて、この時も今回と同じ絵師さんに挿絵をお願いした(ただしサブの短編)。
 このコミケも会場全体で人が多く、その後の反響もそこそこ多かったけれど、一方で、あらかじめ目星をつけていた様にいきなり買って去っていく"手練れ"が大量出現したのだった。筆者の駄文が、そんな風に目星をつけられるはずがない。
「○○さん(絵師さんの名前)の本、これですか!」
と聞いてくる分かりやすい猛者まで登場…ちなみに売り物はすべて筆者の本なのだが(笑)。
 今回も、それらしき人がいたにはいたけれど、それで多くを説明するには程遠い数。もちろん初めて見る方々は多かったが、大半は立ち読みしたり趣向を尋ねたりした上で買う「普通の人」(?)だった。だから前と違い、人と多く話した楽しい記憶が残っている。

 では、本が薄く、常連さんが楽しみの一つにしてるだろう「鉄分」も薄いので、ふだん200~300円のところを100円で売ったことか。
 前に寄ったことがある人からすれば、値段半分。
 そして、このジャンルに並ぶ品々を見回してみると、300~500円という値段をつけたカラー表紙のオフセット本と、100円程度~タダという手製のコピー本にほぼ二分されている。その中で白黒コピーとはいえ業者製本をかけ、表紙・本文ともできるだけ本格的っぽくした物が100円というのは、初めての方々に値ごろに見えたかもしれない。薄さも「もし全部読んでハズレでもダメージが少ない」という方に作用しただろうか。
 デフレと賃下げが続く昨今だし、買う立場を想像して周囲を見渡すと挿絵説よりは説得力がある。
 ここで話を終えられれば、タイトル通りのオチでめでたしめでたし…。
 しかし、200~300円をつけたままの既刊も比較的よく売れた。「新刊が安いからついでも増えた」で済ませてもいいのだが、同じジャンルにいる何人かの知人も、倍ではなさそうだが手応えはよかったという。



 そうなると、決定的な原因は外に求めるしかない。
 こんなところか。
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①実は『東方』などが目当ての人だけでなく、ただコミケ自体を目指して来た人も相当数増えていた。
②比例して"創作文芸"に来る人も、実は増えていた(元の数が少ないから、定率で増えても増加数自体は小さい)。
③比例して筆者のところに寄る人も増え、人々の懐具合もあって筆者のつけた100円がより多くの人目を引いた。
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 たしかに、私が店を出した2日目だけなら「東方」で説明がつくのだけれど、知人友人の情報を総合する限り3日とも同様だったらしい。
ファイル 14-2.jpg ファイル 14-3.gif
 結局、「どうして今回、コミケを目指して来る人間が増えたのか」ということを考えなきゃならなくなった。
 ここで筆者に、評論家じみた世相論や文化論を考えてみせる気力は残ってない。
 ただ、一つだけ思い出すことがある。
「前に繁盛した頃も、『物価下落』が言われてたような…」
 そこで、ちょっと消費者物価の推移を見てみる。
 上の2つのグラフがそれ(出典:「社会情勢データ図鑑」、なお「総務省統計局ホームページ」にて数値を検証)。
 左のグラフは対前年同月比の推移で、すべてを含んだ「総合」の折れ線に注目してほしい。水準や下げ幅が今回とは比較にならないものの、06年の冬コミも、しばらく物価が下がり続けた後に位置している。両者の間にあった物価高騰はまだ記憶に新しい。
 ただ、09年は夏コミの頃で底を打ち、反転しているように見える。けれども右の指数化した絶対値を見ると、冬コミ、つまり現在も緩やかに下落を続ける状態なのが分かる。それに実感としてどうだろう。政府が「デフレ宣言」をし、出血覚悟の値下げ合戦が私たちの間で共有されつつあるのは今現在のことだ。
 そして企業の収益が削られるから賃金が下がり、賃金が下がるから消費者が安値を求める…。

「デフレになるとコミケの来場者が増える!」
 一挙にそう言ってしまいたいところだが、資料が少なすぎるし理由も説明できない。手取りも下がって外出が近場に…という理屈が使えそうだけれど、懐が淋しいからって外出先をココにする人間がいるのか?って気がする。それに06年の物価下落は限定的なもの(三つの折れ線のずれから推測されたい)で、大きな賃下げは伴っていない。
 それを押して「デフレ=コミケ来客増」が合っているとすると、今、筆者が自分のブースの客を増やそうと思うことは、デフレのさらなる進行(→賃金や労働条件の低下)を願うことになってしまう。
 趣味の本のために日本中の働く人々を敵に回すのは、ちょっと無理。自分も賃下げじゃないか。
 そこで戻って「100円だから売れた」説を採ったら採ったで、何を書いていくらかかっても100円で売らなきゃいけなくなる。まあそれが今の世間なんだが。
 …というわけで結局、今回はまぐれだと結論づける。
 その前に、作品が良かった・悪かったとは全く考えない時点で、今年もこの筆者には期待しない方がよさそうです(笑)。



 あ、申し遅れました。新年明けまして、おめでとうございます。
 旅行記じゃない上に続き物を放置してますが、まあそのうちに。

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