まつりばやし



     T

 謙一は、夢を見ていた。
 両側を家や板塀に囲まれた狭い道に、彼は立っている。夜であるらしく、薄暗い。故郷の町だということだけは分かるのだが、実家の前を通る道に見えるかと思えば、そうではない別のどこかの様にも思える。
 よく見ると、道の少し先に、浴衣を着た少女が、こちらに後ろ姿を見せて歩いている。謙一の見る夢はいつも白黒で、浴衣の色は分からない。真ん中に結び髪が垂れ下がっていて、あとは浴衣の背中が襟まできれいに見える。ただ、髪型をよく見るには、少し明るさが足りない。
 とても懐かしい、誰か。というより、謙一はその顔も見えない少女に、恋心すら覚えている。なのに、なぜかそれをテレビか何かで見ている様な心持ちがして、その後を追おうとは思わない。
 そうこうするうちに、浴衣の少女は、突き当たったやはり薄暗い通りを左に曲がって、姿を消してしまった。それでも謙一は、消えてしまった、と寂しく思うだけだった。
 遠くの方から、ぴーひゃら、どんどん……と、祭囃子の笛太鼓が響いている。
 そのまま彼は意識が遠くなり、そしてこの夢のことも、忘れてしまう。

 二〇〇五年、八月二日の早朝。
 三拍子を繰り返す列車の揺れ。そして寝床が横に引っ張られ続ける心地。
 その感覚に、謙一はハッと目を開けて、寝たまま枕元をガサゴソと探る。しかし、探し物はうまく見つからない様だ。あきらめた彼は目の前のカーテンをめくる。廊下側の大きな車窓には草ぼうぼうの崖が流れているが、間近過ぎて外の明るさがよく分からない。
 謙一は舌打ちすると面倒くさそうに体を起こし、寝台の低い屋根を気遣いつつ逆側へ移った。そしてそちらのカーテンの外へ手を伸ばし、窓に降りた遮光幕を少しだけ上げて、顔をしかめたまま外をのぞいた。
 円山川。
 土手のすぐ下に見える海の様に広い川は、謙一が寝坊したのではなく、そして七年ぶりに帰り、十一年ぶりに住む事になる故郷がもうすぐであることを、一瞬で彼に告げた。
「…………」
 謙一は、夏の朝日にきらきらする青い川面に見とれたが、すぐに寝台の中へ戻り、元の面白くなさそうな表情に戻って着替えを急いだ。景色は降りる駅があまりにも近くであることを示していたし、それに帰郷と言っても、彼自身も両親も望んでのものではなかったから。

 事実、それから三分もしないうちに、列車は駅に着いた。青色の客車がゆっくりと滑り出し、やがて曲線を描く長いホームの先へと消えると、早朝のプラットホームは謙一ひとりきりになってしまった。小さいながらも名のある温泉町を背負い、八月頭といえば昼間は観光客で混み合っているだろうこの駅も、さすがに朝六時半ではがらんどうだった。ホームに口を開けている、改札を兼ねた事務室にだけ、かろうじて人の気配がする。
 大学最後の春休み、まさか七年も帰らないなんて思わずに出発したあの晩も、他に誰もいなかったっけ……。しいんとなったホームで、謙一の頭に感慨と憂鬱とが同時にやってきたその時、改札口から飛び出してきた人影がこちらを振り向き、彼を呼んだ。
「ケンちゃん!」
 光の加減でいまひとつ姿が分かりづらかったが、それがいとこの朝香なのは声で分かった。謙一がそれを分かると彼女はもう駆け出していて、彼が歩き出す間もなく目の前にやってきて、ぴたっ、と止まった。
「おかえりなさい」
短く切った髪。うっすらと日焼けした笑顔の額に、汗が浮いている。冷房がよく効いていた車内よりは少し暑いことを、謙一はいまさらながらに気づいた。
「ああ…………ただいま」
やや遅れて、ボツッとあいさつを返す謙一。
「疲れた?」
そんな謙一のあいさつを、朝香はぼーっとした様な、何とも言えない顔で受けた。彼女は、謙一の帰郷が気まずいものなのを知らないのか、あるいは考えない様にしているのか。
「……いや、大丈夫だよ」
謙一は、笑顔で答えなくては悪いと思い、また実際に出迎えがあったことがうれしかったので、軽く笑って朝香の顔を見た。少し遅れて、彼女もニコッと笑った。
 最後に会った時、朝香は小学四年生になるところだった。だから、今は高校二年生になっているはずだ。丸い目のかわいらしい顔は相応に大人びて、白いTシャツに浮かぶ体の線も昔とは違っている。それに、背が伸びた。並ぶというにはほど遠いが、見下ろすという感じでもなくなり、ショートパンツから伸びている足もスラリとしている。でも、少し高い元気な話し声はそのままで、それが彼に帰ってきたことを実感させた。
 謙一の実家と朝香の家とは、すぐ近所だ。朝香の家が本家と呼ばれ、隣にある旅館を経営している。謙一が十二歳の時に朝香が生まれ、一人っ子だった彼は、急に妹ができた様な心持ちで、赤ん坊の彼女をよく見に行ったものだ。一方、朝香の両親は彼女を玉の様にかわいがり、そして当時は祖父母もいたが、いかんせん商売が忙しい。それに、朝香にも兄弟がなく、たまたま近所にも同年代の子どもがいなかった。だから彼女にしても、謙一は一番よく遊んでくれる「お兄ちゃん」だった。そんな風だったから、十一年前に謙一が進学して東京に出て行ってからも、彼が帰省してくると朝香は真っ先に会いに来たのだった。
 謙一が大学を出て、この町に帰らなくなってからも、彼女からは年賀状と暑中見舞いとが欠かさず来ていたのだが、この三年ほど謙一は返事を無精していたので、実は朝香を見た時、彼はちょっとどきっとした。だが、かえって恥ずかしいぐらいに謙一を慕ってくるのも、昔のままだった。
「わざわざありがとう。……行こうか」
「うん!…………あ、お出迎えの人が、もう一人いるよ」
「ふうん」
 謙一は、誰だろうと思いながら朝香を連れて改札を出る。薄暗い駅舎の中から見る外はまぶしく、一瞬だけホワイトアウトした。それが止むと、浴衣姿でタバコをくわえた中年男が、彼に向かって片手を上げているのが見えた。
「穂坂、おかえり」
「……先生」
 石岡学という、謙一の高校時代の教師だった。「豆タンク」という当時のアダ名の通り、今もがっちりしていて背が低く、濃い顔立ちを真っ黒に日焼けさせている。それはいいのだが、彼は高校のある、ここから十キロほど離れた豊岡という町に住んでいて、しかも車を持っていないはずだ。
「そんな不思議そうな顔せんでも。今日帰ってくる言うから、昨日さかちーの家の客になってたんや」
タバコを吸殻入れに落としながら、石岡が明るくそう言って朝香を指差した。彼は以前から朝香の家の旅館を定宿にしていたから、その泊まり客になったというのは分かる。でも、彼女を「さかちー」とアダ名で呼ぶのは一体……、と謙一が思ったその時、
「私、北高に入ったんだよ。で、学ちゃんが副担任」
朝香がうれしそうに謙一を見て、それから紹介する様に石岡の方へ平手を差し出した。北高は、謙一の母校である。石岡と連絡を取った時、彼がまだそこにいるのを聞いて驚いたが、朝香を受け持っているとは聞いていなかった。

「お前さんの噂は、二人でようしてたで」
「……ど、どんな?」
「まあ、いろいろと、や」
「いろいろって……」
「ふふ、まあいいじゃない」
 土産物屋や食堂が朝の支度を始める音にまじって、三人の声が、駅前通りに響いていく。車も、鉄道やバスで町外に出ようという人影もまだ少ない。外湯へ朝風呂をしに行く浴衣姿が少しずつ目立ってきて、柳の木と石橋のたもとが見えたら、そこからが温泉町だ。この、地蔵湯橋という石橋がまたぐ川を大渓川と言い、その両側に柳並木、そして背の低い旅館や商店が並ぶ。薄緑色の川面は今日も静かで、町並みや柳の枝を鮮やかに映している。
「相変わらずだな……」
無感動な独り言とは裏腹に、謙一の目は川沿いの景色に釘付けになっていた。カメラを持っていたら、二人を待たせて四、五枚写しただろうか。
 この城崎という湯の町は、古くは志賀直哉の小説でその名を知られ、今でも、関西では大人なら名前ぐらいは知っている。しかし、高速道路や幹線国道から外れ、またスキー場とも無縁であるためか、堀の様な川の両側に木造の温泉宿や雑多な店がへばりつく、昔ながらの静かな姿を今も保っている。のどかな町並みと山の青葉、それに温泉と、あとは冬場のカニ料理。それだけを売り物に、極端に流行りもしなければ寂れることもなく生き続けるこの町は、謙一がこの前に里帰りをした七年前と何も変わっていない。
 だが、住んでいた頃はもちろん大学時代に帰ってきた時も、謙一にはしけた田舎町だとしか思えなかったこの温泉場が、今の彼の目にはひどく美しく映っていた。…………これで、故郷に錦を飾る様な帰り方だったら……。柳並木と古い建物とに挟まれた川沿いの道を歩き、朝香や石岡の話に生返事を返しながら、謙一はまた憂鬱になった。

 朝香の家がやっている宿は、その柳並木を過ぎ、川を離れて温泉町の中心を抜け、角を曲がって少し進んだところにある。駅からはちょっと歩くし、建物もそう立派ではないが、静かだし、新しくて清潔な外湯がすぐ隣にある。
 分家にあたる謙一の両親は、ここの役員兼従業員だ。石岡の部屋に着くまでの間、謙一は両親と出くわすのをひそかに警戒していたが、この時間は朝食に人手を取られているのか、旅館の人間には誰とも会わなかった。
「じゃ、ケンちゃん、ゆっくりしてってね」
 朝香は、一番に客室に入って謙一の座布団を敷き、謙一たちを迎え入れると、立って出口へ向かった。と、扉を開けてから振り向き、眉間にしわを寄せて、
「あ、学ちゃん、今からまた寝ちゃダメだよ!……あんなに寝起きが悪いなんて思わなかった」
と石岡に言ってから、扉を閉めた。石岡が敷かれたままの布団に横座りして、笑いながら短く刈った頭を掻いている。
「先生は、本当に相変わらずで」
「いやあ、こっち来てから十年ちょい、女生徒に蹴り入れられたんは初めてや」
 彼は朝が苦手らしく、謙一の高校時代に、写真部の撮影行に顧問でありながら遅刻し、次の列車でやって来て大いに名を下げたことがあった。だが、あまり懲りていない様子だ。
 石岡は立って障子を開くと、その先にある椅子に座って片手でタバコを出し、もう片手で窓を開けた。山の緑が、朝日を受けてきらきら輝いている。
「……今日も、ええ天気になりそうやなあ」
彼は窓の外を見てそう言うと、タバコに火をつけて、謙一の方を向いた。
「そうや、お盆が明けたらお前さんを呼ぶって、教頭が言うてたわ」
「そうですか……お世話になります」
 謙一は、病休者の代替として、二学期からしばらく母校に勤めることになっていた。彼が東京で行き詰まったことを石岡に相談したところ、運良くその口があったのだった。
「何度も言うたが、きっとお前さんには面白い仕事やし、一度なれたら、ぜいたく言わなんだらいずれ次の口はある。……なあ、資格いうのは取っとくもんやろ?」
「……はい」
「しかし、穂坂、……よう帰ってきたなあ」
 まるで功成り名を遂げた教え子を見る様に、石岡はしみじみと笑って謙一を見つめた。謙一は、彼が本心から喜んでいるのを分かりはしたが、かと言ってそれを素直に受け取る気にもなれず、黙って下を向いた。


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 謙一がカメラを持ち始めたのは、中学の終わり頃だ。
 ちょうど今ぐらいの時期のある日、本家の旅館の前を流れる川のせせらぎが美しく見えて、それで、当時まだ存命だった祖父のライカを借り出して、見よう見まねで川の風景を何枚か撮った。現像に出してみると、果たしてそのうちの一枚に、流れる水の透明さや川を覆う青葉のまぶしい緑が、彼が見た通りに写し出されていた。
 それから、家にしまわれていた安物で、謙一は身のまわりの色々なものを写した。川沿いの柳、表通りの町並み、駅舎、そしてそこにいる人々。彼がこの田舎町をきれいだと思うことはあまりなかったが、見たままをその通りに切り取ってみたい、という思いが、彼にカメラを持たせて方々へと歩ませた。
「むしとりいくぅ」
 ちょうど、朝香が家の周りを散歩できる様になった頃のことで、謙一はよくカメラを持って朝香と出かけた。まだカメラも写真もよく分からない彼女は、謙一が町並みや木立を写している間、蝶やトンボを追いかけることが目当てだった。だから、カメラを提げた謙一と出かけることを、朝香は
「虫捕り」と呼んだ。しかし、よちよち歩きの幼児に虫捕りは難しい。彼女が疲れて泣き出すのは嫌だったが、さりとて謙一も虫捕りは苦手で、かわりに捕まえてやることもできなかった。
 そこで彼はある日、一日をつぶして木や草の蝉やカマキリ、それに川を渡るトンボの群れなどを写した。途中から、朝香と一緒に虫捕りをしている気分になり、彼は一生懸命だった。そうして撮った写真を、朝香の前に並べた。
「わあー…………」
 朝香は、目を丸くして写真を眺めた。当時の謙一の腕前やカメラの能力では、動くものはぶれ、小さな被写体はピンぼけしてしまっていたが、彼女はお構いなしに、
「とんぼ……こおろぎ……」
などと言いながら、何度も見ていた。
「……虫捕りはね、網で捕るだけじゃないよ」
 自分の気持ちが伝わったみたいに朝香が喜ぶのがうれしかったし、写真を人に喜んでもらえたことは、謙一の趣味をさらに楽しくした。

 自動ピントの限界もあって、その後謙一はそれに飽き始めたが、ちょうどその頃彼は、豊岡にある北高に進学した。そして他にこれと言って趣味はなかったから、誘われるまま写真部に入った。彼はそこで、二つの新しいことに出会う。
 ひとつは、ふたたび一眼レフに出会い、勉強すればもっときれいな写真が撮れると知ったこと。そしてもう一つは、町を出れば、いつか川のせせらぎを写した時の様に、美しくて思わず切り取りたくなる景色がたくさん待っていることだ。これは石岡の趣味で、ここの写真部が毎月の様に列車やバスで撮影行をしていたことによる。特に、竹野、香住と呼ばれていた城崎の西隣一帯は、海が山を削って織りなす絶景が広範囲に点在している。そこの海や山々、静かな漁村、それにそうしたところをゆっくり進む列車や、景色を背景に歩く人々……それらが、謙一の胸を打った。部の撮影行だけでは飽きたらず、一人で、あるいは気の合った部員や石岡と連れ立って、年中歩き回っていた。

「ウチの部の看板はな、一に『人と風景の穂坂』や」
 めきめきと腕を上げた謙一の力を、石岡はこう評して高く買っていた。部員たちの中でも、もっぱらそういう評価だった。
「そして、二に『鉄道写真の中沢』やな」
 中沢というのは謙一の同級生で、二年から引退まで、謙一が部長、彼が副部長をつとめた間柄だ。住まいも同じ城崎で、彼は老舗旅館の次男坊。そのせいか十蔵という時代めいた名前を持ち、謙一も含め、生徒は名前の方で呼んでいた。
 十蔵は、後に「鉄道以外なら就職しない」と公言し、猛勉強してそれをかなえてしまった熱心な鉄道マニアで、中学の頭から鉄道写真を撮りまくっていた。驀進してくる列車をアップで収めた彼の写真は、迫力と緻密さとを存分に兼ね備え、そのキャリアを裏付けていた。けれどもその構図以外はほとんど撮らず、それが謙一からすればもったいなかった。
「十蔵、鉄道撮るにしても、もう少し周りの風景とか、駅で家族連れが乗り降りしてるとことか、いろいろ凝ってみたら?……雑誌でも、そういう絵が多いみたいだし」
「いや俺は遠景はどうも性に合わないし、駅撮りなんてしょぼいよ」
 しかし、謙一も駅や列車は好きな素材の一つだったので、十蔵の話は面白く、役に立った。甲高い声でまくし立てる彼は部内で浮いた存在だったが、謙一は気にならなかった。そして十蔵もまた謙一に刺激を受けたのか、”列車と紅葉”といった彼には珍しい写真を撮ってきて、謙一にアドバイスを求めてきたりした。
「穂坂、お前あれをどう撮る?」
「…………俺なら、こう……」
「いやいやいや!それじゃあダメだと、俺は思うんだよ!」
 学校や撮影行の行き帰り、十蔵との議論は尽きなかった。ただ、謙一には人に答えを返す時にちょっと考えてしまう癖があって、それで台詞の八割方は十蔵のものだったから、他人には十蔵が一方的にしゃべっている様に見えた。
 撮影行といえば、謙一が高三の夏休み、こんなハプニングもあった。
 五歳になった朝香は、さすがに幼稚園へ上がってからは遊び友達もできて、年ごとに謙一と一緒にいることは減っていた。だが、相変わらず虫捕りが好きで、しかしそれは男の子の遊びだったから、それがしたい時は彼のところへやってきていた。虫もたまに捕まえられる様になったし、それに謙一がする写真撮影にも興味を持ち始め、一緒に景色を見ては「あれ撮って」とせがんだりしていた。不思議と、朝香がせがむものは謙一もいいと思っていて、逆もまたしかりのことが多かった。
 かわいい子分と言えばその通りだったが、謙一は遠出をすることが増えていて、そういう時に来られると連れて行くわけにも追い返すわけにも行かず、足手まといだった。その日も写真部の撮影行でこれから城崎駅に集合、というところへ、
「ケンちゃん、虫捕りしよう」
朝香がやってきて、何を言っても聞かない。謙一はついに一計を案じ、
「じゃあ、ちょっとここで待っててね」
と言って、そのまま裏口から家を出た。
 泣きじゃくる朝香を想像して胸が痛み、川を渡るあたりで涙まで出そうになった謙一だったが、とにかく駅へ着いた。すると、十蔵たちが彼の背後を見て、
「その子、誰?」
と不審そうに聞いてくる。まさかと思って謙一が振り向くと、朝香がぜいぜい言いながらすぐ後ろに立っていたのだった。
「家へ返してたら乗り遅れるし、今日はあんまり歩かないから」
という石岡の意見に一同異存はなく、結局一行は朝香をまぜて出発した。まとわりつかれて撮影は思い通りにできないわ、仲間からは「幼妻」などと後々までからかわれることになるわ、謙一にはとんだ一日だった。

 高校時代、謙一に刺激を与えた人間がもう一人いた。
「穂坂君、今日は私の勝ちだね!」
「…………競争だったの?」
「別にそうじゃないけど、なんていうか、私の方が早かったから」
 謙一は三年の時、水瀬麻衣子という女の子とクラスメートになり、毎朝早い時間に顔を合わせていた。おとなしい、勉強がよくできる少女だったが、時々、出会い頭に突拍子もないことを言って謙一を返事に困らせた。
 当時、謙一は小遣い稼ぎに、本家の旅館へ朝食の調理を手伝いに行っていた。仕事は学校に行くには少し早い時間に終わるが、かといって何をするにも中途半端な空き時間だったので、学生服で旅館に行き、終わるとそのまま電車で登校して一人で教室にいた。一方、麻衣子は城崎よりも西の柴山という町から北高まで通っていたが、城崎から西は列車の便が少ない。適当な時間帯に学校のある町へ着く列車が一本しかなく、ぎゅうぎゅう詰めを嫌った彼女は、一本前の列車で始業の一時間前に登校していた。
「ねえ、写真部の展示で、海とかをきれいに撮ってる人……だよね?」
 鈴の音の様な声。抜ける様な色白の肌と、上の方で結んだ長くてまっすぐな黒髪。円い眼鏡越しに、日本人形の様な細くて黒目がちな目が、謙一をうれしそうに見ていた。彼はその時初めて、早く来て教室にいる人間が校内にもう一人いたのを知った。
 それから毎朝、麻衣子が謙一の向かい側に座る様になったのは、単に朝早く来ている同士だったからではない。彼女は美術部で風景画を描いていて、やはりこのあたりの山や海を素材にしていた。それに、謙一は比較的広い範囲で景色を切り取り、その構図自体が主役というタッチの写真を好んだが、絵を見せてもらうと、そういうセンスもよく似ていた。
「うわー、穂坂君も餘部に行ったんだ!」
 謙一の写真帳を見ていた麻衣子がバッと顔を上げ、細い目を丸くして言う。
「……あ、うん」
謙一が少し黙ってから、不器用に返事をする。
「私も、ついこないだスケッチに行ったばかりなの。鉄橋もきれいだけど、あの辺の海って、とっても不思議。だってね……」
麻衣子が、餘部の感想やエピソードをひとしきり語る。謙一は、うなずきながら優しい顔で聞いている。そして、それが終わると謙一が、少し考えてから、自分のエピソードや麻衣子の話の感想を返すのだった。
 麻衣子がひとしきり語る、と言っても、決して麻衣子がものすごい勢いで話しているわけではない。先述の通り、謙一は返事が一呼吸遅れてしまうので、彼が話題を出す前に麻衣子の続きが始まってしまうのだった。彼は自分のそういうところは嫌だったが、ずっと自分が話せないわけではないから、麻衣子と向かい合っている時は別にそれで構わなかった。それよりも、同じ場所について、似た者同士でその美しさを共有できるのはうれしかったし、彼がまだ行ったことのない場所の話はとても役に立った。
 麻衣子と一度だけ、城崎の町で会ったことが、謙一にはある。毎年八月四日に行われる、夏祭りの晩だった。二人が高三の夏だから、一九九三年のことになる。
 地蔵湯橋の上は、そこで花火を見ようという人でごった返していた。謙一は中学時代の友人と歩いていたが、はぐれてしまった上に動けなくなってしまい、そのままそこで夜空に上がる花火を見ていた。
「穂坂君」
 腕をつつかれて振り返ると、麻衣子がいた。青色の浴衣が、色白の肌や結んだ髪に驚くほどよく似合っていて、謙一はどきっとした。
「や、やあ、……どうしたの?」
「柴山から友達と来たんだけど、はぐれちゃって……穂坂君は、そっか、城崎だものね」
 当時、まだ携帯電話はない。二人並んで、そのまま花火を見上げていた。両側の人垣に押され、麻衣子のやわらかい感触がずっと横にある。そして振り向けばすぐそばに、彼女の黒い潤んだ瞳。何を話したか、謙一はよく覚えていない。ただ、汗をかくほど暑いのに麻衣子の体温が心地よかったこと、それに彼女の襟元から、コロンか何かに首筋の汗がほんのりまじった、甘酸っぱい匂いがしていたのを覚えていた。
「あ、そろそろ列車の時間だから、駅で待ってみるね。じゃ、ありがと」
 花火の終盤、人混みがだいぶ楽になったところで、麻衣子は去って行った。どこかで奏でられている祭囃子の調べが、かすかに響いていた。後ろ姿を見送りながら、謙一は動悸を覚えていることに気がついた。
 その日から、彼は麻衣子を、異性として好きになった。
 二学期も、毎朝麻衣子と顔を合わせることは続いた。相変わらず楽しめる話題は多かったが、麻衣子と会うことには、もちろん別の楽しみが加わっていた。ただ、これももちろんだが、同時にそれは苦悩でもあった。つやのあるまっすぐな髪、黒目がちの美しい目、夏服から伸びる真っ白な腕、開襟シャツの上に丸みを作る女性らしい体つき……すべてが、そう、顔のニキビまでが謙一には悩ましかったが、どうすることもできない。
「おはよう。久しぶりに、よく晴れたね」
か弱く、それでいてよく通りそうな音色の声にも、謙一はどきどきする。気取られまいとすると余計に返事が遅くなり、そうなると麻衣子の楽しげな話が続いて、謙一の動悸はさらに高まるのだった。
 朝、どちらが先に来ても、必ず麻衣子の方から声をかけてきて、麻衣子が謙一の席へ来る。麻衣子は楽しそうだし、それに彼女が謙一の話を聞いている時、たまに頬がほんのり赤くなっている様に見える。しかし一方で、どこかに出かける、ないしは出かけたという話を毎日しているのに、
「一緒に出かけようか」
という提案はない。それに、そろそろ三番目の人間がやってくるかなという時間になると、麻衣子はきっちりと話を切り上げて自分の席へ戻っていく。以降、日中にクラスの仕事などで顔を合わせても、そっけなかった。
 そして放課後は、どちらの部活も不規則な活動をしていたので、先方の有無や時間がまったく分からなかった。二学期からは引退生活なのだが、十年前の田舎町のことで予備校があるわけでもなく、謙一も麻衣子も時々それぞれの部に顔を出していたのだ。加えて、毎日ではないがどちらにも帰り道は連れがいる。
 それでも、何度かは自然に、もう何度かは謙一が待ち伏せをかけて、学校や駅から二人で帰ることができた。
「……水瀬さん」
 門から下のバス通りまで続く坂道で、話題の切れ目に、息苦しさをこらえて謙一が呼びかける。
「ん?」
振り向いて話を待つ麻衣子の顔は、少しわくわくしている様な、何かを期待している様な顔。夕陽が、色白のやわらかそうな顔を紅く染める。でも、期待している中身が謙一の思い通りなのか、それとも別の楽しい話なのかは、まるで分からない。もちろん、朝からそれまでの出来事を考えてみても、どちらにも取れる。
「えっと……電車の窓から、川を見るとさ……」
 謙一は、しばしば夜も眠れなくなるほど恋い焦がれていたのに、結局何事も起こせなかった。

 ところで、寝食を忘れて入れ込んでいた写真だったが、謙一は趣味の域だと固く信じていた。プロになろうなどとは夢にも思わず、さりとて他の何事についても自信は持てず、将来のことは何も考えられなかった。
 そんな謙一に、
「もし、自分の一番好きなことが仕事にできたら、一生のもうけものや。それにやってみてダメでも、命取られるわけやなし」
と勧めたのは、石岡だ。謙一ははじめ聞き流していたが、熱心に撮影行を率いて、いい写真が撮れると心底からほめてくれる彼に何度も言われるうち、少しずつその気になった。専門学校も考えたが、分野が分野なので親が難色を示した。それに謙一自身もモノになるかどうか半信半疑だったから、大学へ進み、まずは大学の写真部か外部のサークルで写真を続けることになった。
「十蔵、俺、プロを目指すことにした」
 謙一はまず、この道のよき友、よきライバルだった十蔵に打ち明けた。
「そうか……穂坂の腕なら、ひょっとしてだな。がんばってな」
 彼は彼で鉄道会社への就職を決めて意気揚々のはずだったが、その口調は明るくなく、どこか恨めしげだった。たしかに、十蔵の元の希望は鉄道写真家で、しかしいくら鉄道雑誌に投稿してもお呼びがかからずあきらめた口だったから、その気になれば夢がかないそうな謙一が恨めしかったかもしれない。
 もちろん、麻衣子にも言った。ただ、風呂敷を広げてダメだったらみっともないと思い、十蔵に対してよりもだいぶ後、大学が決まってから打ち明けた。
 明けて一九九四年。すでに自由登校になっていた冬の夕暮れ、合格を知らせに登校したら鉢合わせして、その帰り道だった。
「へえ!すごいじゃない!」
 さく、さく、と雪の坂道を踏みしめる音を止めて、麻衣子は大きな声で祝福してくれた。
「大変だと思うけど、穂坂君なら、きっと、成功すると思う。……でも、」
そこで麻衣子が、真顔で前を向き直った。何だろうと謙一は思ったが、
「あんまり大先生になっちゃったら、会えなくなっちゃうな」
顔から火が出るぐらい、謙一は照れくさくなった。
「……そ、そんなことないって。それより、麻衣子もがんばってな」
麻衣子は、教育学部で美術教員のコースを専攻しようとしていたが、試験がまだ先だった。
「うん。画家はムリだけど、日本一の絵の先生に……なれたらいいね」
「ああ、なれるよ」
「ありがとう」
 にっこり笑いかけてきた麻衣子の頬は寒さで真っ赤だったが、謙一にはその赤みが、寒さのためだけではない様に見えた。高揚する気持ち、坂道と木立とを真っ白に染める一面の雪、そして、おそらくこれが最後になる、二人きり………。
「麻衣子」
謙一が急に足を止め、麻衣子が不思議そうに目を丸くする。そして彼が麻衣子の肩を抱くべく左向け左をしたその時、
「うわっ!」
向きを変えた足が雪に滑り、謙一はしたたかに腰を打った。のみならず、思わず何かをつかんだ片手の方を
見ると、……麻衣子の白いマフラー、そして謙一に引き倒された彼女がいた。
「もう…………」
 麻衣子の怒りはほどなく止んで、おしゃべりも再開された。だが、魔法が解けたかの様に、謙一はふたたび勇気のない少年に戻ってしまった。そしてそれは、城崎で迎えた最後の日までそのままだった。
 そうして、謙一は東京へ旅立って行った。彼が乗る列車を泣きながら見送っていた女性がいたが、それはこの春に幼稚園の年長組に上がろうという朝香だった。
 謙一が後で聞いたところでは、麻衣子は希望通り大学に受かり、神戸へ行ったとのことだった。

 謙一は大学に入学すると、予定通り写真部を選び、活動に励んだ。幸いそこは、大学の写真部の中ではレベルが高いところで、彼にはいい勉強になった。盛んな写真部、そして理数系の学部ということで謙一は多忙を極め、かなわなかった麻衣子への恋心は少しずつ薄まっていった。同じ町内の十蔵とは帰郷のたびに顔を合わせていたが、麻衣子には会わなかったから、忘れていくのはそのせいもあった。
 そして、謙一は大学生活の後半に、プロとして活躍しているOBの目に留まる。
「穂坂君、君の人物を写し込んだ絵、いいねえ」
 その先輩はぬいぐるみや人形といった静物が専門だったが、他の写真家たちと組んだり仕事を融通し合ったりしていたから、自然、建築物、風物など何でもありだった。声をかけられるまま、その人を師匠にいただく様な格好になり、写真を持ち込んではアドバイスを受ける様になっていった。そして、雑用を手伝うために大がかりな撮影に同行して、そこでも指導を受けて撮っているうちに、小物の撮影を任される様にもなった。
 大学を卒業すると彼はますます忙しくなり、故郷へ帰らなくなった。写真の仕事はまだ雑用の方が多いし、他のアルバイトもする必要がある。それに勉強しなければならないこともたくさんあった。しかし、自分が次第に成長していくのが彼自身にも分かったし、師匠から認められることも、仕事を任されたり紹介を受けたりすることも少しずつ増えていった。夢が近づいてくる足音が、彼の耳を捕らえて離さなかった。
 ただ、親からは事あるごとに「就職しろ」という電話がある。その都度謙一は、自分がいかにうまく行きつつあるかを向きになって強調した。彼が帰省しなかったのは、忙しさの他に、そんな親と顔を合わせるのが嫌だということもあった。やがて、ごくたまに雑誌に載る様な仕事が入り出した頃から電話は減り、かかってきても中身は激励だったが、今度は「調子のいい親だ」という思いで、彼はやはり城崎へ帰らない。結局それで、大学を出た年から今までの七年間、謙一は一度も帰郷しなかったのだ。
 それから、年に一度か二度、石岡が帰省のついでに訪ねてきた。彼は大阪に長くいたせいで関西弁を話しているが、実家は東京にあるのだった。石岡は謙一の活躍を喜び、作品をじっくり楽しんでくれるよき理解者だったが、別れ際になるとやはり彼を故郷へと誘った。
「たまにはこっちへ帰ってこいや。親不孝なやっちゃなあ……」
「先生こそ、東京にだって学校はあったでしょう」
「ハハハ……何やお前さん、きつうなったなあ」 会えばうれしいのだが、石岡が寂しそうな顔をする場面が増えてきたので、次第に謙一は席を早めに切り上げる様になっていった。
 そうして、十一年あまりに及んだ東京時代のうち、最後の二、三年ぐらいは、故郷を思い出すことすらほとんどなくなっていた。

 ともあれ、すべてがうまく回っていくそんな日々を過ごすうちに、謙一は、ちょっと考えてから答えを返す様な話し方をしなくなった。口調も堂々としてきて、顔つきも引き締まり、いい男になった。
 だが同時に、謙一にはいくらか慢心が見られる様になり、そしてそれは彼をこらえ性のない人間にしていった。
 写真の仕事はタダではないが、必要な経費は自分持ちで、東京から離れた場所であったりすると逆に足が出てしまう。だから他のアルバイトもする必要があるわけだが、
「俺はこんなところでバイトしている人間じゃないんだ」
という先走った自負が頭をもたげ、バイトが長続きしない。渡り歩いたアルバイトのうち半分ぐらいは自分から辞め、あとは接客業を中心に、トラブルでクビになっていた。しんどい生活の中でプライドが空回りし、酒を覚え、酒場の女性にうつつを抜かし、払うあてのないツケを背負う有様になる。
 そして、そのツケが縁になって、謙一は彼の技術を活かせる「バイト」にありついた。
 女性のモデルを公園や海でいくらか写した後、高級な旅館やホテルの一室で、同じ女性が衣服を脱ぎ、体を開き、男たちと様々に交接する姿を、一晩がかりで撮影する………当局に隠れてひそかに売られている、猥褻な写真本。そのカメラマンを、彼は務めたのだった。その種の本を見るとさぞや簡単で役得のある仕事にも見えるが、モデルの一挙手一投足ごとにストップをかけ、しめて数百回、全神経を集中してシャッターを切る。角度を変えようとするたびに自分が前後左右に動かなければばならないし、足りないカットがあればやり直しもある。男女の行為を見て興奮するどころか、仕事が終わると、謙一はもちろん、モデルたちも、そして仕切役や雑用の面々も、汗みどろになってその場に伏せっていた。
 この姿を、あの冬の日に彼を祝福してくれた麻衣子が見たら、どんな顔をするだろうか。しかし、謙一は久しく彼女のことなど考えてもいなかった。
「先生、またひとつ、ぜひ」
 毎日の様にある仕事ではないが、金はよく、謙一はそこそこ他のアルバイトをしていれば一息つける様になった。また、技術はもちろん、女性を艶めかしく写す才能も彼にはあった様で、この世界での彼の評判はよかった。「先生」と呼ばれ、そして現場に行けば謙一はたった一人のカメラマンである。だからこの仕事は、彼のゆがんだプライドも満たした。
 しかし何より、面白みという点で謙一はこの仕事にはまっていった。人を写し込んだ構図をほめられてきたことで、彼には「正面から人物というものを撮ってみたい」という願望が芽生えていたが、そういう機会がなかなかなかった。それが、たとえエロ写真であれ満たされたのだ。そして謙一の期待通り、動くたびに肌の色あいや明るさを変え、その都度違った艶めかしさを見せる「人物」たちは彼の意識を大いにくすぐり、撮れば撮るほどさらに写したくなった。ただ、彼はそうした充実感の中で少しだけ、
「自分の求めているものとちょっとだけ違う、いや、何か一つだけ足りない」
という感覚を覚えていて、終わった後もそのことをあれこれ考えるのだが、結局それを追求するためにも、彼は次の仕事に没頭するのだった。

 本来の写真修行はおろそかになり、師匠から認められることが減っていく。
 そして、裏稼業の方も長くは続かなかった。
 ノックの音に謙一がアパートのドアを開けると、刑事が二人立っていた。写真本のグループが摘発されたのだった。逮捕できたのはお前だけだと聞かされ、自分はいい様に使われていただけだったことを彼は知った。
 半分は青ざめて、もう半分はどうでもよくなって、問われるまま正直に話す謙一だったが、実家に連絡することだけは拒み続けた。親に心配をかけるからというより、「それ見たことか」と言われるのが嫌だった。それが心証を悪くしたのか、結局起訴されずに釈放されたものの、謙一は期限いっぱいの二十日あまり勾留され続けた。
 かわりに、写真の師匠のところへ連絡が行っていた。
「気の毒だが、君にしてやれるのはここまでだ。君の話は噂になっていて、私にも立場というものがある」
 釈放されたその日、それでも身元を引き受けてくれた師匠にそう言い渡され、謙一がそれまで細々と積み上げてきた夢は、もろくも崩れ去った。
 謙一は生活のために職を求めたが、写真以外のすべてをいいかげんにしてきた彼を待っている定職はない。短期のアルバイトにありつくも、喪失感は日増しに大きくなるばかりで、いたたまれなくなってきた。心中を誰かに聞いてもらおうにも、この境遇では大学時代の友人に会うこともできない。
 外に出ると、いや、アパートの部屋にいても、不安と動悸とにさいなまれて何もできない日々。東京での生活だけでなく、東京そのものが謙一の心の傷になっていた。だが、まったく知らない土地で一から生活を作っていく気力も、もはや彼にはない。そうなると、実家のある温泉町に帰るしかなかった。親に対しては気まずいという思いしかなく、朝香や伯父伯母にも顔向けしづらい。十蔵をはじめとした友人にしても同じで、どこで何をしているか分からない麻衣子に至っては、思い出すことすらなかった。……だが、それでも故郷の他に、あてはない。
 そうして謙一は、やはり気まずいとはいえ、故郷で一番自分のことを分かっていると思えた石岡に、電話を入れたのだった。


   (つづく)


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