A5版152ページもあるとさすがに400円
★中編「 海が見える駅 」(田島葵)
【作品・挿絵のサンプル】 【読者からのご感想】
五年と少し前の夏。日本海を見下ろす小さな無人駅・鎧に、十四歳の少女・夏美は降り立った。
海辺の村に住む叔父夫婦を頼り、ここで絵筆を握ってのんびりと過ごす。それが彼女の夏の楽しみだったが、今年の夏美は元気がなく、スケッチブックも持っていない。
「もう、何もしたくない。帰りたくない…帰るぐらいなら、死ぬかも」
小さな失敗を機に生きる意味を見失い、苦痛な日々から逃げる様な気持ちで地元・横浜を出てきていた夏美。そんな彼女を、飄々とした叔父夫婦、深い山に囲まれた村の静けさ、そして崖上の駅から見下ろす海の青さが優しく包む。
ある日、夏美は駅からの眺めを楽しむべく、当地の友達・京子と一緒に駅への坂道を登った。すると……
「…なんか、駅、変わってない?」
「ここ、駅員さんなんか…いなかったよね?」
コンクリートだった駅舎が木造になり、無人であるはずの構内には転轍機を動かす駅員、そして手旗や謎の「輪っか」を持って行き来する駅長の姿があった。機械油やコークスの匂いが、ほのかに漂っている。
「え?!」
やがて二人の耳にけたたましい汽笛が聞こえ、黒煙を盛り上げて巨大な蒸気機関車が…。
そこは、太平洋戦争末期・1944年の世界だった。
警官に追われたところを一人の青年に助けられ、夏美たちは村や駅を案内される。昔は漁業と林業で豊かだったという村は、男手を兵隊に取られ、急な山肌で狭い田畑を耕す生活を強いられていた。そして駅には客の姿がなく、駅員たちは列車をただ通過させるためだけに、炎天下で毎日同じ作業を繰り返している…。
「無駄なのが分かってるのに……どうして、そんな辛いことを黙々と続けられるの?」
海辺の村で過去と現在を行き来しながら、いつしか自分の生き方を模索し始める夏美………豊かな自然と歴史ある鉄路を舞台にした、心温まるファンタジー。
★短編「 鉄 橋 の 下 」(眞あずみ) 【読者からのご感想】
ある、夏の日。
大学時代のガールフレンドが、故郷を「汽車でしか行けない村」と言っていたことを、龍紀はふと思い出した。
ただ、彼女がそう言ったのを鮮明に覚えているだけで、なぜか彼女に関してあまり多くを思い出せない。
「……………」
ちょうど年休をもてあましていた龍紀は、ふらりと、その遠く離れた奥深い村を訪れる。
前は海、背後と左右は山。天翔る様な鉄道の鉄橋が村を跨ぎ、そのたもとにある小さな駅だけが村の入口だった。そして彼は「旅人が珍しい」と言う村人たちの手厚い歓迎を受けるのだが、その中に一人、見覚えのある女性を見つけた………。
男と女の揺れる心、そして村に少しずつ漂い出すミステリアスな空気。
鉄橋を見上げる夏の田舎で、忘れ得ない悲喜こもごもが展開していく。
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