阪神ファンと日本経済  われらが阪神タイガースは、結局4位だった。  では、筆者をはじめとするファンが「結局これかよ」と落ち込んだのかというと、そう ではない。  最下位脱出も興奮の種だが、我々は「今日勝てばその日は優勝」だから、例年より20 回以上多く優勝の喜びにひたった。いや、正直な話、ファンの多くは負けゲームすら楽し んでいる。ダメ虎がダメ虎なりに頑張り、いい場面で代打八木!!…やっぱあかんわ〜、 という「お約束」、それが幸せなのだ。  この様に書くと巨人ファン諸氏は「安い連中だ」と思われるかも知れないが、筆者はむ しろ、勝たないと、優勝しないと楽しくない、という巨人ファンの方が気の毒だと思う。  優勝して当然。その価値観に立つと、手段を選ばず優勝し続けるしかない。他に取られ たくないという動機で名選手を取りまくる球団の姿は、オーナーのせいだけにはできまい。  経済や雇用のありようを眺めると、世の中が「巨人化」しているように思えてならない。  即戦力を採り、成果主義で差をつけて、短期にめざましい業績向上を期待する。携帯電 話やコンピュータを見るに、確かにそれは、短期的にヒットする商品を生み出しはする。 が、長続きしないから目まぐるしいサイクルで次を開発しなければならない。  買う方も、流行遅れ、ないしは規格に合わなくなる不便を避けるために次々と買い替え ざるを得ない。そして買うために彼もまた職場で「すぐ成果を出せ」と迫られつつ働く。  無間地獄だ。  こうしたあり方に、何十年も人々に愛され続けるような商品やサービスを生み出す事は、 可能だろうか。  「プロジェクトX」という、ドキュメンタリー番組をご存じかと思う。「取り上げ方が 一面的」などの指摘はあり同感なのだが、ビデオやワープロなど、その後数十年にわたっ て使われる商品の開発過程は、大筋で事実だ。  失敗にめげず、何年もかけて新しい商品をめざす登場人物の多くは、終身雇用と年功序 列賃金とに支えられたサラリーマンである。もし、彼らが一年刻みの業績評価で賃金や雇 用を決められていたら、何年も挑戦し続けられただろうか。否である。  さて、大阪商法というと目まぐるしい印象があるが、電鉄・百貨店・宝塚歌劇の阪急、 吉本新喜劇、チキンラーメンにグリコのキャラメル、そして阪神タイガース…と、不変の ロングセラーを作るのがうまいのも関西だ。  苦心して作ったブランドが、長く、静かに愛される。空気の様になってしまい、モデル チェンジするとかえって苦情が来たりする。これこそ、買う人にも働く人にも幸せを売る 商売だと、私は思う。  優勝は十年二十年に一度でいい。  十年二十年とファンに希望を与えられるような優勝を一回してくれれば、同じだ。  手前味噌だが、阪神ファンの様な心構えが、本当の幸福のためには必要ではないだろう か。何よりも経済の「巨人化」で一番あおりを食っているのは、とりあえず「即戦力」で はない新規学卒者、とりわけ高校卒業者である事を付け加えておく。 (2003年1月)