○ 商 定 ま ん が 大 王  ご存じならば話が早いのだが、「あずまんが大王(※)」という漫画がマイブームだ。  内容は、高校生が毎日ギャグ一杯の学校生活を送る学園もの。世界は「ごく普通の学校」。  ヲタク受けを狙って描かれている部分がないでもないが、強烈なキャラクターと独特の ギャグが面白い。絵柄も自然で描きやすいので漫画研究部の生徒たちに貸したところ、男 の子向けの漫画にもかかわらず、女子部員諸姉の頭脳を占領しつつある。  漫画に本気で文句を言うつもりはない。それどころか読むほどにこの漫画は萌える。  ただ、「みんな同じ」というものを見ると違和感を覚えてしまう私の性分に、何かが引 っかかったのは確かだった。そして、主要なキャラクター全員が当たり前の様に大学へ進 む、というラストを読んで、引っかかりの正体が分かった。  全員進学もそうだが、なぜ全員黒髪で直毛なのか。  なぜ全員制服をちゃんと着ているのか。  なぜ全員経済的に不自由していないのか。なぜ全員毎日学校へ来るのか…。  体育会系のキャラクターはまだしも、どう考えても「疑問を持たずに言うことを聞く」 という世界について行けなさそうなぼんやりした生徒まで、みんなと同じく登校し、進学 していく。  この点、私のいる学校について言えば、生徒たちは鋭かった。 「○○がこんな学校にいられるわけないじゃん。うちの学校だよ」 「何で誰もデビューしないのかな。デビューするなら○○ちゃんか○かな」 「暴走族と○が対決するってのは?」 などなど、彼女たちは私より先に、「ごく普通の世界」に肌で違和感を覚えていた。  生徒に寄り添っているつもりが、甘かったのである。  「普通の学校」「普通の高校生」という言い方を、特に大人はよくする。だが、私の勤 め先の生徒でなくとも多かれ少なかれ違いはあり、「普通の高校生」なるものはいない。  だが、漠然とイメージされた「普通」が一人歩きし、定時制にいる子や片親の子、経済 的に苦しい子などが「自分は普通じゃない」と感じ、元気をなくす。  同じ事はテレビドラマなどにも言えるし、学校ではなく家庭が描かれる時などにも言え る。「家庭がサザエさん一家みたいにならない」と悩んでいる若い主婦が結構いるとか。  幸い生徒たちも私同様、全否定して元気をなくすのではなく、違和感は違和感としつつ、 面白いところは摂取する姿勢でこの漫画を楽しんでいる。  いいところは材料に、そして疑問点をエネルギーにして、少数派が元気を出せ、爆笑し たりドキドキしたりできる漫画を、彼女たちに描いてほしい。 (※)…あずまきよひこ著 メディアワークス刊 (2002年10月)