列 車 で G O !  みんなで旅行をというと、目的地までの時間や値段だけが考えられ、近くで少人数なら 車、もう少し人がいると貸切バス、距離が伸びていよいよ列車かと思いきや飛行機になる。  しかし私は 「旅は途中も楽しむべきで、それが一番なのは列車で、値段が不利でもそれは楽しみ賃だ」 と思っている。  のみならず、一人ないし二、三人でよく列車の旅をする。中学生の頃から始めて、おか げさまで全都道府県を踏破した(沖縄は飛行機だったが)。  以前は機関車が数両の客車を引っ張る普通『列車』が多く残り、これが長い時間をかけ てかなりの距離を走っていた。照明は白熱灯でドアは押して開ける、という旧型客車も残 っていた。途中で何十分も停まったりするので、半日乗って移動距離は200q程度。  これを乗り継いで、夜は駅で寝袋にくるまるという旅行を、かつてはよくやった。  山あいの町:F駅の待合室で目を覚ます。朝6時前、T行きの普通列車が走り出す。  ほどなく、背より高い行李をしょった行商のおばさん達が乗って来る。  次は高校生の通学ラッシュ。おばさんたちと微妙になまりが違う。  左は山の緑、右手は広く静かな川。前の方から機関車の汽笛。  高校生たちが消え、初めて車内が空く。向かいのおじさんがタバコに火をつけ、こっち へ来た。 「君、旅行?」 「ええ」  そういえばこの人もラッシュの前から乗っていた。終点のT市にある大学の教員で、実 家がF市にあって時々この列車を使うという。  日本海が見えてきた。朝飯抜きだったが、もうすぐ20分停車するH駅だ。  立ち食いそば屋はホームと待合室の両側に口を開けていて、ホーム側では10円出すと、 車内に持ち込めるよう使い捨てのお椀にしてくれる。が、時間があるので店で食べる。  そしてお昼前、Tに到着。乗り継ぐ予定の列車には一時間ある。  もう一本後にして、ちょっと散歩しよう。時刻表を出し、計画を練る・・・。  町や川や海が地図の通りにあり、そこに人々が生活している、という事が体感できた。 様々な出会いもあり、楽しかった。  が、高校を出た頃から、こういう旅行は次第にやりにくくなった。私が社会に出たせい もあるが、鉄道会社が「ご旅行は特急で」となり、普通列車を地元の通勤通学専用と見な して細切れにしてしまった。持ち帰りのそば屋も減った。  確かにかつての普通列車はあまりにも遅すぎたし、「旅の途中の楽しみ」は、特急でも まあ健在だ。だが、もう少し遅くていいから、もっと安くならないか。どんなに頑張って も所詮飛行機より遅いのだし、人に勧めようにも車や貸切バスとの差がありすぎる。  なんにせよ、向かい合わせに座って弁当を食べたりビールを飲んだりできるし、在来線 ならば、古からの街道に沿って町を縫いながら走るから、道中も観光だ。酔う人や恐怖症 の人も少なく、渋滞もない楽しい道中。  期間限定でいいから大バーゲンをして、この楽しさを車族に伝えてほしいものだ。 (2002年9月)