ある日、学校が  期末考査後のある日、緊急打ち合わせが招集された。  顔を青くした校長が切り出した。 「教育庁を通じて・・・本校のグラウンドを自衛隊が使用するという通告がありました」  教頭以下十数名の定時制職員室は驚愕した。 「何とかならないんですか!!」 「何ともなりません」  議論の末、諸々の問題で教育庁に直談判して数々の成果を挙げてきた「燃える男」Kさ ん他が、市ヶ谷の防衛庁に向かった。が、彼等はそれきり帰ってこなかった。  某国が東京へ届くミサイルを開発しているらしいのが「有事」なのか?…だが、そんな ことは過去に何度もあり、外交努力で終わらせてきたはずだ。  ともあれ、グラウンドに幕が張られ、昼夜兼行で土木工事の音が響き始めた。校舎に穴 が開けられ、隅田川まで通じる道ができた。川に桟橋が築かれたらしいが、これまた幕が 張られている。そして、武装した自衛隊員がこれらを守る。  建設業の経験を持つ生徒が言った。 「ずいぶん掘ってるな、相当大きな建物作るんだな」 大規模な補給基地?しかしそれにしてはここは道路の便が悪すぎる。  生徒が校内でトラックにはねられたが、自衛隊は「後日話を伺う」。  この対応に業を煮やし、責任者らしき者たちが陣取る校長室に怒鳴り込んだ同僚のNさ んは、銃で撃たれた上に逮捕。校長に善処を具申させたところ、教育庁の回答は「当面、 生徒は自宅学習。教職員もなるべく自宅待機、服務は研修」。  ―――――あれほど言っていた「授業日数の確保」「都民の理解」とやらはどこへ?  こうして、定時制職員室は教頭と私だけになってしまった。全日制も同様らしい。  と、事務室のドアの前に、幼なじみの姿を見つけた。「落とし穴の鈴木」と言われてい た男で、それが高じて温泉や油井を掘削する会社を起業したと聞いている。  久闊を叙するのもそこそこに、私はグランドで起こっている事態について尋ねたが、歯 切れが悪い。 「国の命令とはいえ・・・人を不幸にする穴を掘るのは、ガキの頃だけにしたかったな」  穴?そうか、迎撃ミサイルの基地か!あんなどでかい物を都内へ運び、配備するとすれ ば・・・船、何の変哲もない下町、最適の立地だ!!しかし、そんな物を配備したらかえ って真っ先に狙われる。報せなきゃ!どこへ?新聞社・・・手が回っているだろう。で、 とりあえずわが新聞部長に電話。 「もしもし、Tか?あのな・・・あっ、お前誰だ!うわーっ!!」  やや極論だし、ミリタリーマニアから色々言われそうな稚拙な筋書きだが、こんな事も しようと思えば合法的になされうる「有事」法案が上程されている。  今国会では継続審議となる様だが、今年中にも再び審議される。「有事」とやらが遠い どこかであっても、私たちが兵隊であってもなくても、私たちに無関係ではない事だけは 知っておこう。 (2002年6月)