「大きな杉の木の下で」 挿絵=榎よしひろ A5版64ページ・200円
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読者のご感想集
夏休みの終わり。真っ青な空と緑の稲田に包まれた、すがすがしい眺めの中を走る列車。
が、乗っている晴香はすがすがしくない。下校中に襲ってきた頭痛と吐き気を、エンジンの振動と効き過ぎの冷房とが増幅していく。
たまりかねて手前の駅で飛び降りると、よりによって屋根も何もない炎天下の無人駅。ホームの先に大きなヒマラヤ杉を見つけて木陰に飛び込むや、晴香は気を失った。彼女は名門吹奏楽部の二軍部員。過酷で先の見えない練習の日々に、身も心も疲れ果てていた…。
「………?」
「姉ちゃん、大丈夫か?」
額に、ひんやりした感触。目を開けると、十歳ぐらいの活発そうな男の子が晴香を覗き込んでいた。
「ありがと…ん?」
しかし額から生温かい液体が流れ落ち、顔はおろか襟元まで一面ベトベト。くすぐったいと思ったら肌が蟻だらけ…。
「礼は、俺が食べとったアイスに言うてや」
「そんなもん人のおでこに当てるなー!」
飛び起きて水道を探すも見当たらず、駅のまわりも見渡す限り田んぼしかない。
「水があるとこ、知っとるで」
「ホンマ?!」
「ホンマや。行きたい?」
「連れてって!」
「ええで…けど、そのかわり姉ちゃん、俺と付き合うてくれるか?」
「えぇ?!」
ヒマラヤ杉の駅から始まる、ほんのり甘酸っぱくてちょっと不思議で、そして少し勇気の出る物語。