◆新幹線なら京都乗換で!
東京からは、新幹線と在来線(東海道線・山陽線)の組み合わせ、あるいは在来線のみで西へ向かい、兵庫県・上郡から、その名も「智頭急行」という近年開業の私鉄で北上することになる(他にも面白い経路はあるが、別の機会に譲る)。
フリー切符のたぐいはなく、この経路である限り、運賃は片道あたり9,860円(往復分を同時に買って往復割引を受けた場合)。これにプラスして特急券を
@東京−(新幹線「のぞみ」)−京都乗換−(特急「スーパーはくと」)−智頭
A東京−(新幹線「のぞみ」)−姫路乗換−(特急「スーパーはくと」)−智頭
のいずれかで買い、その通りに動くのが一番メジャーな方法だ。
本文で町長氏が「東京まで四時間」と言っていたのはAの方で、何も言わないでいると駅の窓口もAの切符を発行してくる。が、@の方が一時間あまり余計にかかるものの、面白い。
@は京都から在来線なので、六甲の山並みや須磨海岸、明石海峡大橋といった車窓がついてくる。在来線を許容一杯の速度で走るスピード感も、鉄道趣味の有無に関係なく面白いはずだ。そして車窓は、左右だけではない。「スーパーはくと」の先頭にはこの様な眺めがあり、智頭へ向かう場合ここは自由席なのだが、@の場合は始発駅の京都から乗るので、自由席でも座席が取りやすい(特急料金も指定席でない分、数百円だが安くなる)。
また、@だと新幹線の選択の幅が広がり、京都乗換時に、必要に応じた余裕時間を設けられる(「スーパーはくと」は車内販売を休止しているので買い物は重要)。Aの姫路乗換の接続は良好なのだが、良好すぎて買い物などに不自由する。しかし東京発・姫路停車という新幹線は限られており、ちょうど接続する列車を使うしかないのだ。
◆より効率よく、安く…「サンライズ瀬戸・出雲」
本文にある通り、この経路上には新幹線のほか「サンライズ瀬戸・出雲」という夜行列車がある。
といっても寝台に乗ると、特急料金+寝台料金が最低でも9,450円。いかに全室個室とはいえ、22時から翌朝6時前・上郡着までの宿としては高い(新幹線+「スーパーはくと」は智頭まで7,280円)。
が、二両だけ「ノビノビ座席」という車両があり、これなら料金は3,660円。新幹線経由の特急料金と比べても安い。「座席」と言っても完全にフラットなカーペット敷きの床(幅約1メートル)で、敷布団・枕がないのと、隣との仕切りが不完全なことが寝台扱いでない理由だ。「仕切りが不完全」という字面だけを見ると不安かもしれないけれど、女性や家族連れも結構利用している。
5時49分に上郡着、6時03分には向かいのホームから特急「スーパーいなば」が出る。智頭まで自由席特急料金410円、6時49分に智頭へ着く。
ただしその時間の智頭には、飲食店もなければ簡単な買い物をする店もない。着いてしばらくは、ひっそりした町並みなどの風景を撮影する時間にしたい。
なお、この夜行は上りでも使える。智頭22時15分発→上郡23時11分発、東京は翌朝7時08分着。
ちなみに智頭駅が「みどりの窓口」を備えた有人駅なので、現地でも乗車券や特急券の変更はできる。ただし係員一人で改札と窓口を両方やっており、列車の到着が近づくと立て込むので、余裕を持って利用したい。
◆温泉のある宿…隣の県だけど、あわくら温泉
町内に旅館が四軒ほどあるが、春はその日のうちに大阪へ戻ったし、冬も直接問い合わせる暇がなかったので、値段の水準や一人泊の可否などは今のところ分からない。
智頭急行で上郡方面へ戻ると、やがて通過に二、三分かかる長いトンネルに入る。抜けると岡山県で、すぐに「あわくら温泉」駅に着く(智頭から所要16分)。そこから徒歩5分で「国民宿舎あわくら荘」。一年を通じ、二食つき9,000円程度(時期によりさらに安いプランあり)・朝食付き6,000円程度の料金で、この値段で一人泊も受け付ける。ピカピカとはいかないが、部屋(和室)も浴室も十分に清潔で静かだ。
写真は、「あわくら荘」から智頭急行の線路(下の方にある高架や築堤)を見たもので、画面左端のすぐ先に駅がある。駅のホームからも「あわくら荘」が、そこまで行く道とともによく見える。
◆飲食事情とおみやげ、周辺部への交通
見どころや行事については挙げるとキリがないので、本文に書いた他は観光協会公式サイトに譲る。
なお行事については、どれも身動きが取れなくなるほど人が集まることはなく、紹介の写真そのままの風景を楽しめる様だ。
まず食事だが、一般向けの店は、駅周辺に洋食屋と中華食堂がある。他に鳥取大丸(と言っても二階建ての洋品店)の中に「ファミリーレストラン」があるが、これは店名で、実態は小さなお好み食堂だ(笑)。
一方、旅行客向けのものは旧街道に集中。古い町家を使った蕎麦屋(写真)、保存家屋「石谷家住宅」内の喫茶店、それから酒の蔵元「諏訪泉」にも食事処がある。どこも常識的な値段で雰囲気もいいのだが、一部は入館しないと利用できなかったり、特定のメニューや営業自体が休日のみだったりといった制約があるので注意。
営業はいずれも、昼前から日没前後まで。深夜営業する「本当のファミリーレストラン」は鳥取市内まで行かないとない。
食料の買い出しは、駅周辺に限られる。駅から見て左側の、少し引っ込んだところにスーパーマーケット、その敷地の隣にデイリーストアがある。デイリーストアは朝から夜8時頃までやっており、これが駅の窓口以外で最も営業時間の長い客商売らしい。コンビニは、車で町の前後数キロを走り回った際にも見当たらなかった。
それから別の項で書いたが、特急には車内販売がなく、駅には小さな売店があるものの弁当までは置いていない。スーパーマーケットの総菜売り場で弁当やツマミを整えるのがおすすめ。
土産だけれども、酒は別にして、町レベルでの食べ物の名物というのは特にない(田舎だから米と蕎麦はうまいが)。職場に菓子など買って帰ろうと思っている向きには、これは悩ましい。上で出てきた鳥取大丸に鳥取の菓子が一揃い売っているので、食べ物の土産はそれで妥協。
町の名物は、何と言っても杉材に尽きる。木で作れる小物は何でもある。木工品各種の他、炭や、果ては下草で作ったらしいワラジなどが、駅の真向かいにある観光案内所で売っている。ここの木工品は香りがよく、案内所に入るとうっとりする様な匂いが体を包んでくる。
さて、本文でも智頭の町から離れて恋山形駅周辺まで出かけているが、町域は南(山形・山郷地区)と南西(那岐地区…写真)に広がっており、行くと緑豊かな「なんにもないとこ」を満喫できる。
南へは智頭急行、南西へはJR因美線が伸びており、特に因美線の那岐駅は古めかしい駅自体に一見の価値があるが、どちらも日中は極端に本数が少ない。町で運営する「すぎっ子バス」が智頭駅から両方面へ向かっており、これは駅から離れた場所へも行くから、ぜひ鉄道と合わせて利用したい(といってもネット上に時刻表がないのだが…)。ただしバスも土曜は極端に本数が減り、日曜に至っては完全に運休となる。